大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成6年(ワ)2355号 判決

甲事件原告・反訴被告、乙事件被告

兵庫交通株式会社

甲事件被告・反訴原告

大裕建材有限会社

甲事件被告

住野一富

乙事件原告

富士火災海上保険株式会社

主文

一  甲事件被告らは、甲事件原告に対し、連帯して金一三五万円及びうち金五六万二五〇〇円に対する平成五年一月二四日から支払済みまで、うち金七八万七五〇〇円に対する平成六年二月九日から支払済みまで、各年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件原告は、甲事件被告会社に対し、金一二一万円及びこれに対する平成五年一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告は、乙事件原告に対し、金四六万八〇七七円及びこれに対する平成八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  甲事件原告、甲事件被告会社、乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、各当事者に生じた費用をそれぞれ各当事者の負担とする。

六  この判決は、第一ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件本訴

甲事件被告らは、甲事件原告に対し、連帯して金三九五万七八〇四円及びうち金二二三万二八〇四円に対する平成五年一月二四日から支払済みまで、うち金一七二万五〇〇〇円に対する平成六年二月九日から支払済みまで、各年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件反訴

甲事件原告は、甲事件被告会社に対し、金二一六万円及びこれに対する平成五年一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  乙事件

甲事件原告は、乙事件原告に対し、金八五万一〇五〇円及びこれに対する平成八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)に関し、次の各請求がされた事案である。

1  甲事件本訴

本件事故により、物損の生じた甲事件原告が、甲事件被告会社に対しては民法七一五条、四四条により、甲事件被告住野に対しては民法七〇九条により、損害賠償を求める。

また、本件事故により物損の生じた訴外恵タクシー株式会社(以下「訴外会社」という。)に対して損害賠償をした甲事件原告が、訴外会社に対する関係では、本件事故は、甲事件原告と甲事件被告らの共同不法行為であるとして、右損害賠償の求償を求める。

なお、付帯請求は、甲事件原告の物損の損害賠償に関する部分(請求額金二二三万二八〇四円)に対する本件事故の発生した日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、及び、訴外会社への損害賠償の求償に関する部分(請求額金一七二万五〇〇〇円)に対する訴外会社に損害賠償の支払をした日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による法定利息である。

また、甲事件被告らの債務は不真正連帯債務である。

2  甲事件反訴

本件事故により、物損の生じた甲事件被告会社が、甲事件原告に対し、民法七一五条により、損害賠償を求める。

なお、付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

3  乙事件

甲事件被告会社と保険契約を締結していた乙事件原告が、本件事故により傷害を負つた訴外田畑幸一郎(以下「訴外田畑」という。)に対し、右保険契約に基づき甲事件被告会社に代わつて保険金を支払つたことによつて、商法六六二条一項により甲事件被告会社の甲事件原告に対する損害賠償請求権を取得したとして、甲事件原告に対し、右求償を求める。

なお、付帯請求は、請求欄記載の金額を請求した乙事件の請求拡張の申立書が甲事件原告に送達された日の翌日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

二  争いのない事実等(証拠の記載のない事項は、当事者間に争いがない。)

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成五年一月二四日午後一一時二〇分ころ

(二) 発生場所

神戸市兵庫区福原町二八番九号先 信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 争いのない範囲の事故態様

訴外梁泰聖(以下「訴外梁」という。)は、普通乗用自動車(神戸五五を一一一四。以下「甲事件原告車両」という。)を運転し、本件交差点を、西から南へ右折しようとしていた。

他方、甲事件被告住野は、普通乗用自動車(神戸三三の八二七〇。以下「甲事件被告車両」という。)を運転し、本件交差点を、東から西へ直進しようとしていた。

そして、甲事件被告車両の前面左側が、甲事件原告車両の左側面に衝突した。

また、右衝突後、甲事件被告車両は制御を失つて暴走し、その前面右側が、本件交差点西側の西行き車線の路端に停止していた訴外田畑運転の普通乗用自動車(神戸五五を六七九。以下「訴外会社車両」という。)の後面右側に衝突した。

なお、本件事故が発生した当時、甲事件原告車両及び甲事件被告車両の進行方向である本件交差点の東西方向の信号は、いずれも青色であつた。

2  各車両の所有

本件事故当時、甲事件原告は甲事件原告車両を、甲事件被告会社は甲事件被告車両を、訴外会社は訴外会社車両を、それぞれ所有していた。

3  責任原因

(一) 甲事件被告住野

甲事件被告住野は、本件事故に関し、前方の安全確認義務違反の過失がある。

したがつて、甲事件被告住野は、民法七〇九条により、甲事件原告及び訴外会社に生じた損害を賠償する責任がある。

(二) 甲事件被告会社

甲事件被告住野は、甲事件被告会社の代表取締役であり、本件事故の際、甲事件被告会社の業務に従事中であつた。

したがつて、甲事件被告会社は、民法七一五条、四四条により、甲事件原告及び訴外会社に生じた損害を賠償する責任がある。

(三) 甲事件原告

訴外梁は、本件事故に関し、右折の際の安全確認義務違反の過失がある。そして、本件事故の際、訴外梁は、甲事件原告の業務に従事中であつた。

したがつて、甲事件原告は、民法七一五条により、甲事件被告会社及び訴外田畑に生じた損害を賠償する責任がある。

4  訴外会社の損害に対する損害賠償

本件事故により、訴外会社には金一七五万円の損害が発生し、甲事件原告は、訴外会社に対し、本件事故の損害賠償として、平成六年二月九日、右金員を支払つた(甲第六号証、甲事件原告代表者本人尋問の結果、弁論の全趣旨)。

5  保険契約の締結

甲事件被告会社と乙事件原告とは、甲事件被告車両を被保険車両として、車両保険契約を締結していた(丙第一号証の一ないし六、弁論の全趣旨)。

6  訴外田畑の損害に対する損害賠償

本件事故により、訴外田畑には金三二五万一〇五〇円の損害が発生し、乙事件原告は、前項記載の保険契約に基づき、甲事件被告会社に代わつて、訴外田畑に対し、本件事故の損害賠償として、平成五年七月一四日までに、右金員を支払つた(丙第一号証の一ないし七、甲事件被告住野の本人尋問の結果、弁論の全趣旨)。

なお、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の保険者から乙事件原告に対し、金二四〇万円が支払われたが、うち金一二〇万円は甲事件原告の加入する自賠責保険の保険者が、うち金一二〇万円は甲事件被告会社の加入する自賠責保険の保険者が、それぞれ支払つたものである(弁論の全趣旨)。

7  訴外会社及び訴外田畑の損害に関する負担部分

本件事故は、訴外会社及び訴外田畑(以下、一括して「訴外人両名」という。)に対しては、訴外梁と甲事件被告住野との共同不法行為であつて、甲事件原告、甲事件被告らには、前記の責任原因がある。

したがつて、訴外人両名の損害に関しては、本件事故に対する訴外梁の過失割合にしたがつて甲事件原告の負担割合が定まり、甲事件被告住野の過失割合にしたがつて甲事件被告らの負担割合が定まるというべきであつて、各当事者が自己の負担割合を超える損害賠償を現実にした場合には、これを超える部分を相手方に求償することができる。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び過失相殺の割合

2  各当事者が請求しうる金額

四  争点に関する当事者の主張

1  争点1(本件事故の態様等)

(一) 甲事件原告

甲事件被告住野は、本件事故当時、酒気帯び運転であり、しかも、甲事件被告車両は、制限速度をはるかに上回る速度で本件交差点にさしかかり、本件事故が発生したものである。

そして、右事実によると、本件事故に対する訴外梁の過失割合を一割、甲事件被告住野の過失割合を九割とするのが相当である。

(二) 甲事件被告ら、乙事件原告

訴外梁は右折を開始する前にはまつたく対向車線を注目することなく、自車が右折しようとする進路前方の本件交差点の南側横断歩道方面のみに注意を奪われていた。また、甲事件原告車両は、直進してくる甲事件被告車両を右折しており、直近右折及び早回り右折というべきである。

なお、甲事件被告車両の速度は、制限速度をわずかに上回つていたという程度であつた。

そして、右事実によると、本件事故に対する訴外梁の過失割合を八割、甲事件被告住野の過失割合を二割とするのが相当である。

2  争点2のうち乙事件原告の請求額

(一) 乙事件原告

(1) 訴外田畑の損害に関しては、前記のとおり、本件事故に対する訴外梁の過失割合にしたがつて甲事件原告の負担割合が定まり、甲事件被告住野の過失割合にしたがつて甲事件被告会社の負担割合が定まるというべきである。

(2) また、甲事件原告の加入する自賠責保険の保険者が負担した金員は甲事件原告が負担したものというべきであり、甲事件被告会社の加入する自賠責保険の保険者及び乙事件原告の負担した金員は甲事件被告会社が負担したものというべきである。

(3) そして、前記のとおり、各当事者が自己の負担部分を超える損害賠償を現実にした場合には、これを超える部分を相手方に求償することができるから、乙事件原告は、(2)により甲事件被告会社が負担したものというべき金額のうち、(1)により定まる同被告の負担部分を超える部分を、甲事件原告に求償することができる。

(二) 甲事件原告

乙事件原告が訴外田畑に支払つた金員は、本件事故により乙事件原告に生じた損害ともいうべきものである。

そして、不法行為による損害賠償請求にあたつては、過失相殺、損益相殺の順序でなされるべきであるから、右支払金額について甲事件被告住野の過失による過失相殺を行い、ついで、甲事件原告及び甲事件被告会社の加入する各自賠責保険の保険者が乙事件原告に支払つた金額を損益相殺として控除し、なお、残額がある場合に、その限りで乙事件原告から甲事件原告に請求することができると解すべきである。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  甲第七号証の二及び三、乙第一号証、証人梁泰聖の証言、甲事件被告住野の本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実の他に次の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点は、東西方向は片側各三車線、両側合計六車線(ただし、東行き車線は、これと別に、本件交差点の西側では右折専用の一車線がある。)の道路であり、南北道路は本件交差点から北側が幅員約五・九メートル、南側が幅員約九・八メートルの道路である。

また、本件事故が発生したのは夜間であるが、本件交差点付近は照明のため明るく、東西方向の見通しはよかつた。

(二) 甲事件被告車両は、本件事故直前、本件交差点に向かう西行き車線のもつとも道路中央側の車線を走行していた。

そして、同車両を運転していた甲事件被告住野は、前方約三二・一メートルの本件交差点中央部で、自車の前方を横切つて西から南へ右折しようとする対向車両である甲事件原告車両を発見し、直ちに左転把及び急制動の措置を講じたが及ばず、甲事件原告車両と甲事件被告車両とは衝突した。

(三) 他方、甲事件原告車両は、本件事故直前、本件交差点に向かう東行き車線のもつとも道路中央側にある右折専用車線を、時速四〇ないし五〇キロメートルで走行していた。

そして、同車両を運転していた訴外梁は、同車両が本件交差点の西側にある南北方向の横断歩道付近にさしかかつた際、前方対向車線に甲事件被告車両を認めたが、同車両が相当前方にいたため、右折のために必要な減速をしたのみで徐行ないしは一時停止をすることなく、自車進路前方の本件交差点の南側横断歩道方面の安全を確認しつつ、本件交差点中央付近から右折を開始したところ、甲事件原告車両と甲事件被告車両とが衝突した。

なお、訴外梁は、右衝突の直前まで、甲事件被告車両の動向に注目していなかつた。

(四) 甲事件原告車両と甲事件被告車両との衝突地点は、本件交差点内の、西行き車線の真ん中の車線上である。

また、本件交差点内には、甲事件原告車両と甲事件被告車両とが衝突するまでにつけられたブレーキ痕等は存在せず、右衝突後、両車両がつけたにじり痕が残されていた。

(五) 甲事件被告住野は、本件事故当日の午後七時三〇分から午後八時三〇分にかけて、ビールを中びんで二ないし三本、飲んでいた。そして、本件事故直後の呼気検査では、呼気一リツトルにつき、〇・三ミリグラムのアルコールが検出された。

2  右認定事実を基礎に、訴外梁及び甲事件被告住野の過失について検討する。

(一) 訴外梁

右認定事実によると、訴外梁は、右折を開始する相当手前で甲事件被告車両を認めながらも、自車が先に右折することができるものと速断し、その後は、甲事件被告車両の動向にまつたく注意を払わず、自車をわずかに減速したのみで右折を開始した過失がある。

この点に関し、甲事件被告ら及び乙事件原告は、訴外梁は右折を開始する前にはまつたく対向車線を注目することなく、自車が右折しようとする進路前方の本件交差点の南側横断歩道方面のみに注意を奪われていた旨、及び、甲事件原告車両は、直進してくる甲事件被告車両の直前を右折した旨主張する。

しかし、乙第一号証、証人梁泰聖の証言によると、訴外梁は自車進行方向の東行き信号が青色であることを確認して本件交差点に進入していることが認められ、右折を開始する前にはまつたく対向車線を注目することがなかつたとまでは認められない。また、右認定事実及び後に検討する甲事件原告車両と甲事件被告車両との速度の対比によると、甲事件原告車両が甲事件被告車両の直前を右折したとまでは認められない。

なお、右認定のとおり、訴外梁は、甲事件原告車両が本件交差点の西側にある南北方向の横断歩道付近にさしかかつた際、前方対向車線に甲事件被告車両を認めたものの、その後は、衝突の直前まで甲事件被告車両の動向には全く注目していなかつたのであるから、訴外梁の過失についての当裁判所の評価は、甲事件被告車両を全く認めていなかつた旨の甲事件被告ら及び乙事件原告の主張と、それほど大きく異なるものではない。

(二) 甲事件被告住野

他方、前記のとおり、甲事件被告住野は、本件事故直後の検査において、呼気一リツトルにつき〇・三ミリグラムのアルコールが検出される程度の酒気を帯びた状態であつたが、右数値は決して少ないものではない。そして、右数値によると、危険を察知してから回避行動に移るまでの時間、適切な回避行動を選択するための判断能力、適切な回避行動をとるための行動能力のいずれにおいても、右酒気帯及び状態が、甲事件被告住野の運転に多大の影響を与えていたことを容易に推認することができる。

さらに、前記のとおり、甲事件被告住野は、前方約三二・一メートルの本件交差点中央部で、自車の前方を横切つて西から南へ右折しようとする対向車両である甲事件原告車両を発見し、直ちに左転把及び急制動の措置を講じたことが認められるところ、乙第一号証によると、さらに、右時点から甲事件原告車両が約七・三メートル右折進行し、甲事件被告車両が約二八・七メートル直進進行した地点(ただし、甲事件被告車両は、急制動及びやや左転把の措置が講じられていた。)で、両車両が衝突したことが認められる。

したがつて、右進行距離の比と同じく、この間の甲事件被告車両の平均速度は、甲事件原告車両の平均速度の約三・九三倍であつたというべきであつて、甲事件原告車両が右折中であつたこと、甲事件被告車両に急制動の措置が講じられていたこと、甲事件被告車両が訴外会社車両にも衝突したこと、後記認定の甲事件原告車両、甲事件被告車両、訴外会社車両の破損状況が相当ひどいものであつたこと等をも併せ考えると、右急制動の措置前の甲事件被告車両の速度は、制限速度である五〇キロメートル毎時を大きく上回つていたことを、優に推認することができる。

3  右認定事実によると、訴外梁の過失及び甲事件被告住野の過失のいずれもが、看過することのできない重大なものであるというべきである。

ただ、右に検討したところによると、甲事件被告住野の酒気帯び運転及び相当程度の速度違反の過失による修正要素の方が、訴外梁の前方中止義務違反の過失による修正要素よりも重大であると評価することができるので、対向する直進車と右折車との優先関係をも考慮した上で、本件事故に対する過失の割合を、訴外梁が五五パーセント、甲事件被告住野が四五パーセントとするのが相当である。

二  争点2(各当事者が請求しうる金額)

1  甲事件原告

争点2に関し、甲事件原告は、別表1の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、同原告の損害として認める。

(一) 甲事件原告の損害

(1) 車両損害

甲第三号証の一及び二、乙第五号証によると、甲事件原告車両はタクシーとして使用されていたこと、同車両は、平成四年三月初度登録のトヨタクラウンデラツクスであることが認められ、甲事件原告が同車両を所有していたこと、同車両が本件事故により全損と評価される損傷を被つたことについては、当事者間に争いがない。

ところで、甲第四号証、甲事件原告代表者本人尋問の結果によると、同原告が車両損害として主張する金一九六万四〇〇〇円は新車の価格であることが認められ、これを、直ちに同車両の車両損害とすることはできない。

そして、乙第五、第六号証によると、甲事件車両の本件事故当時の価格を金一二五万円とするのが相当であると認められる。

(2) 休車補償費

交通事故により車両が使用不能となつた場合、当該車両の使用者が当該車両を運行していれば得られたであろう利益を得ることができなかつたときには、右利益は交通事故による損害であるというべきである。しかし、右損害は得べかりし利益を得ることができなかつたことによるものであるから、当該車両の使用者が、代替車両を使用するなどの方法により、右利益を現実に得ていたときには、これを損害とすることはできない。

本件においては、甲第五号証の二ないし四、甲事件原告代表者本人尋問の結果によると、甲事件原告は合計三〇台の営業車両を有していること、甲事件原告車両は、運転手五、六名が交替でこれに乗務していたこと、同車両の代替車両を購入するまでの一四日間、右五、六名は、甲事件原告の有する他の営業車両に乗務していたことが認められる。

そして、右事実によると、甲事件原告は、甲事件原告車両を運行していれば得られたであろう利益を、他の車両を運行することによつて得ていたというべきであつて、右利益を現実に得ることができなかつたとまでは、未だ認めることができない。

(3) 過失相殺

(1)及び(2)の合計は金一二五万円である。

ところで、争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する訴外梁の過失割合を五五パーセントとするのが相当であり、前記のとおり、訴外梁は、本件事故当時、甲事件原告の業務に従事中であつたから、甲事件原告の損害から、過失相殺として、五五パーセントを控除するのが相当である。

したがつて、次の計算式により、過失相殺後の甲事件原告の損害は、金五六万二五〇〇円となる。

計算式 1,250,000×(1-0.55)=562,500

(二) 訴外会社への損害賠償の求償

争いのない事実に記載のとおり、本件事故により、訴外会社には金一七五万円の損害が発生し、甲事件原告は、損害賠償として右金員を現実に支払つた。

そして、右金額のうち、甲事件被告住野の過失割合である四五パーセントに相当する部分金七八万七五〇〇円(計算式は後記のとおり。)は、甲事件原告の負担部分を超える部分であるから、甲事件原告は、甲事件被告らに対し、右金額を求償することができる。

計算式 1,750,000×0.45=787,500

(三) 弁護士費用

甲事件原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であるが、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過、後記のとおり甲事件原告が甲事件被告会社に対して債務を負つていること等一切の事情を勘案すると、甲事件被告らが負担すべき弁護士費用を認めるのは相当ではない。

(四) 付帯請求

訴外会社への損害賠償の求償に関する部分については、民法四四二条二項の準用により、訴外会社に損害賠償の支払をした日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による法定利息を求めることができるというべきである。

2  甲事件被告会社

争点2に関し、甲事件被告会社は、別表2の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、同被告の損害として認める。

(一) 車両損害

乙第三号証、甲事件被告住野の本人尋問の結果によると、本件事故により、甲事件被告車両が損傷を受けたこと、右損傷の修理費用として金二二〇万円が見積もられたこと(乙第三号証の「修理費内訳」の「合計」欄)が認められる。

甲事件被告会社は、右車両の時価額金二七〇万円が同車両の損害である旨主張するが、修理費がこれを下回つているから、これを直ちに採用することはできない。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する甲事件被告住野の過失割合を四五パーセントとするのが相当であり、前記のとおり、同被告は、甲事件被告会社の代表取締役であるから、甲事件被告会社の損害から、過失相殺として、四五パーセントを控除するのが相当である。

したがつて、次の計算式により、過失相殺後の甲事件被告会社の損害は、金一二一万円となる。

計算式 2,200,000×(1-0.45)=1,210,000

(三) 弁護士費用

甲事件被告会社が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であるが、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過、前記のとおり甲事件被告会社が甲事件原告に対して債務を負つていること等一切の事情を勘案すると、甲事件原告が負担すべき弁護士費用を認めるのは相当ではない。

3  乙事件原告

(一) ある交通事故に関して、自賠責保険の保険者及びいわゆる任意保険の保険者として、複数の者が関与している場合、ある被害者に対してある自賠責保険の保険者又はいわゆる任意保険の保険者が保険金を支払い、後に、右複数の者の間で求償権の行使又は損害賠償の填補が行われたときには、それぞれの自賠責保険の保険者及びいわゆる任意保険の保険者が被害者に対してそれぞれの出捐額に応じた保険金を支払つたものとして、保険代位により取得する金額が算定されると解するのが相当である。

すなわち、右複数の者の間では、誰が保険金を支払つたかを問わず、当然に、求償権の行使又は損害賠償の填補が行われるのであるから、ある被害者に対して現実に保険金を支払つた者が異なることによつてその後の法律関係が異なるとする解釈(争点2に関する甲事件原告の主張)は、およそ採ることができないからである。

(二) また、一部保険の保険者が第三者の行為によつて生じた保険事故に係る損害の一部を被保険者(又は、被保険者が債務を負担する被害者)に填補した場合において、被保険者が第三者に対して有する債権の額が損害額を下回るときは、右保険者は、右債権のうち填補した金額の損害額に対する割合に応じた債権を取得するということができる(最高裁昭和五八年(オ)第七六〇号、第七六一号同六二年五月二九日第二小法廷判決・民集四一巻四号七二三頁)。

本件においてこれをみると、(一)で述べたところにより、乙事件原告が被害者である訴外田畑の損害を填補した金額は、乙事件原告が訴外田畑に支払つた金三二五万一〇五〇円から、後に自賠責保険から填補を受けた金二四〇万円を控除した、金八五万一〇五〇円である。

また、被保険者である甲事件被告会社が甲事件原告に対して求償しうる金額は、訴外田畑の損害額のうち、甲事件被告会社の負担部分を超える部分(本件事故に対する訴外梁の過失割合である五五パーセント)に相当する金一七八万八〇七七円である(計算式は次のとおり。円未満切り捨て。)。

計算式 3,251,050×0.55=1,788,077

したがつて、乙事件原告が甲事件原告に対して求償しうる金額は、被保険者たる甲事件被告会社が甲事件原告に対して有する債権(金一七八万八〇七七円)のうち、填補した金額(金八五万一〇五〇円)の損害額(金三二五万一〇五〇円)に対する割合に応じた債権である金四六万八〇七七円となる。

計算式 1,788,077×851,050/3,251,050=468,077

ちなみに、右金額は、当然ながら、乙事件原告が填補した金額(金八五万一〇五〇円)のうち、訴外梁の過失割合にしたがつて定まる甲事件原告の負担部分(五五パーセント)と同額となる。

(三) 右判示したところと異なり、少なくとも甲事件被告会社の自賠責保険から乙事件原告に填補された金額のうち、甲事件原告の負担部分に相当する部分は乙事件原告が当然に取得すると解すべきである旨を乙事件原告は主張するので、この点について検討する。

自動車損害賠償保障法二三条は、自賠責保険においては、同法に別段の定めがある場合を除くほか、商法第三編第十章第一節第一款の規定による旨を定めており、商法六六二条の規定は、当然に自賠責保険に適用がある。

したがつて、自賠責保険の約定により損害の填補をした自賠責保険の保険者は、右填補により取得する範囲内において、第三者に対する損害賠償請求権を取得するのであつて、任意保険の保険者に保険金を支払つたことによつて、これを当然に失うものではない。

このことは、被害者の保護という自賠責保険の立法趣旨(自動車損害賠償保障法一条)、そのための同法第三章の諸規定、特に、自賠責保険の保険者が、自賠責保険に関して代位により取得した権利を行使したときは、その行使によつて得た金額の一〇〇分の六〇を政府に納入しなければならない旨の同法四六条一項の規定から導かれる当然の帰結というべきであつて、政府への右納入の義務のないいわゆる任意保険の保険者である乙事件原告が、甲事件被告会社の加入する自賠責保険の保険者が保険代位により取得する権利を、当然に行使又は取得するとの解釈(争点2に関する乙事件原告の主張)は、およそ採ることができない。

第四結論

よつて、甲事件原告の請求は主文第一項記載の限度で、甲事件被告会社の請求は主文第二項記載の限度で、乙事件原告の請求は主文第三項記載の限度で、それぞれ理由があるからその範囲で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項但し書きを、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表1(甲事件原告)

別表2(甲事件被告会社)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例